ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA

田中正治

内容紹介

 米国防総省(ペンタゴン)直属の軍事科学機関である国防高等研究計画局(DARPA)の厚い秘密のベールに囲まれた実態を、DARPA創設期にまでさかのぼり、関係者71人へのインタビューに基づいて世に問うた全米ベストセラーノンフィクション。(加藤真理子訳/太田出版/2017)

 現在、日常生活で不可欠なインターネットやGPSをはじめ無人ドローン兵器やステルス戦闘機など世界最先端の兵器開発によって「軍事の革命」を使命とするこの闇の科学者集団は、「ペンタゴンの頭脳」とたたえられ、反対者は「軍産複合体の中枢」と批判する。人間の脳をAIと直接接続させることによってサイボーグ兵士、超人的兵士を作ろうとするDARPAとは何者なのか、その実像に迫る。

著者紹介

 アニー.ジェイコブセン、調査報道ジャーナリスト、ロサンゼルス・タイムズマガジンの編集に携わる。秘密基地の全貌を明らかにした『エリア51』は世界でベストセラーになった。

目次

プロローグ

第1部    冷戦

第1章 邪悪なもの

第2章 戦争ゲームと計算機

第3章 未来の巨大な兵器システム

第4章 緊急時対応ガイダンス

第5章 地球最後の日まで1600

第6章 心理作戦

第2部 ベトナム戦争

第7章 テクニックとガジェット

第8章 ランドとCOIN

第9章 指揮統制

10章 士気と動機

11章 ジェイソン・グループのベトナムへの関与

12章 電子障壁

13章 ベトナム戦争の終結

第3部  戦争以外のプロジェクト

14章 機械の台頭

15章 スター・ウォーズとタンク・ウォーズ

16章 湾岸戦争と、戦争以外の作戦

17章 生物兵器

18章 戦争のための人体改造

4部 対テロ戦争

19章 テロ攻撃

20章 全情報認知

21章 IED戦争

22章 戦闘地域監視

23章 ヒューマン・テレイン

5部  未来の戦争

24章 ドローン戦争

25章  脳の戦争

26章 ペンタゴンの頭脳

訳者あとがき

取材協力者および参考文献

要旨:「ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA

 1957年10月、ソ連が宇宙衛星打ち上げに成功した。それはペンタゴン(米国防総省)にとってパールハーバー以来の不意打ちであり、米国民もまたパニックに陥った。当時、米ソ冷戦は全面核戦争を想定、米軍は実践訓練を繰り返していた最中であった。このスプートニクショックに対処するためペンタゴンは、1958年ARPA(高等研究計画局)を設立。ペンタゴンの中枢的な頭脳集団である。その使命は、他国から軍事技術での不意打ちを食らわないように、常に最先端の技術開発をすることにある。

フロンティアスピリットと起業家精神に富んだARPAの指導者たちの大半は博士号を持った科学者たちで、全世界の大学、研究所、軍部の中に数百の研究プロジェクトを立ち上げ、数万の科学者や技術者たちを指揮・監督している。だがその多くは厚い秘密のベールに閉ざされている。本書は、その秘密のベールをはぎ取り覗き見ることができる最初の本である。

 1960年、新大統領ジョン・F・ケネディーはベトナム戦争に直面し、アイゼンハワー大統領の「相互確証破壊」戦略を転換、「柔軟対応戦略」を採用した。ベトナム戦争は泥沼にはまっていた。対ゲリラ戦は全面核戦争では対応できない。DARPA(1972年ARPAが「国防高等研究計画局」に改名)は対ゲリラ戦のための軍事技術開発をペンタゴンから命じられる。ドローン、レーザーに関知されないステルス戦闘機、GPS,インターネット、化学兵器の研究・開発をDARPAは極秘に開始する。しかし、これらの研究・開発はベトナム戦争中には日の目を見ることはなかった。だが、1980年代以降特に21世紀に入って、これらの技術は全面的に実用化され、世界は驚きをもって知ることになる。GPSやインターネットは、今日もはや人々の生活に不可欠なものとなっている。

 ベトナム人とは何者なのか?ベトナム人をゲリラに駆り立てるものは何なのか?ペンタゴンも米軍にも謎だった。彼らは兵器の限界を感じ、その謎を解くために社会学者を動員する。捕虜になったゲリラ兵に社会学者たちが見たものは、「強い自制心と大義への献身」であり、サイゴン政府への不満と共産主義によって腐敗と無縁な良い生活を出来るというものであった。この報告書をDARPAは拒否。

ペンタゴンは「戦略村」を構想し、DARPAに調査・研究させる。DARPAは、「戦略村」は失敗するとの結論に達する。ペンタゴンはその報告書を無視。「戦略村」構想を実行するが、ベトナム人の心を獲得できないどころか敵愾心を増幅させ、「戦略村」は失敗し、米軍はベトナムから敗退する。

 1990年湾岸戦争2003年イラク戦争では、DARPAが研究・開発した兵器は戦局を決定的に左右するものになった。トマホークミサイル、F117Aステルス戦闘機、レーザー誘導GBU27、赤外線夜間爆弾装置、GPS等兵器の「革命」はイラクの防空システムを壊滅。イラク軍は応戦することすら出来なかった。

 だが、1993年、ソマリアの首都モガディシオでの武装民兵及び部族軍に対して米軍は手痛い敗北を遂げる。棒きれ、石、AK47と数発のロケット弾の前に近代兵器は無力だった。非対称戦争である。市街戦においては最新兵器で武装した正規軍は無力であることが証明される。

 ベトナムでもイラクやアフガニスタンでも泥沼の状態になれば最終的に最新兵器で武装した米軍は敗退している。その最大の原因は「民衆のこころ」をとらえられなかったことにある。

 本書では多くは語られていないが、夢想家のようにDARPAが、SFでしか描かれていないよう技術を開発しえてきたのはなぜか?それは発想の独自性にある。パラダイムチェンジを起こすこと。成功のための説得的な仮説・ストーリーを描くこと。失敗を恐れず挑戦すること。既存の概念を破壊すること。誰もが不可能だと思うことに挑戦すること。そしてEnd-Gameアプローチだ。

 伝統的な技術開発モデルが、現在から出発しアイディアをひらめき未来を考えるのに対して、End-Gameアプローチはまず、未来に新しい技術を想定しその実現過程を考え、現在のニーズを実現する。逆転の発想である。この発想は脳の前頭前野が可能な思考プロセスだが、そのことは最近脳科学によって証明されているようだ。DARPAは脳科学者がこの脳機能を解明する以前にEnd-Gameアプローチを実行していたことになる。アメリカ人のフロンティアスピリットがそうさせたのかもしれない。

 DARPAの大きな組織的特徴は、プロジェクトマネージャーが中心となって、米国および世界で研究されている「軍事の革命」を引き起こすような斬新なアイディアを、研究者、技術者のコミュニティーから見出すことである。産業界、学会、プロジェクトマネージャーの人脈、ワークショップの開催など異文化の融合を行う。プロジェクトマネージャーは新しいアイディアを基にプログラムを企画・立案し室長に提案する。決定されれば半年から一年かけて検討し、ニーズや方向性を決定する。この過程は他の機関にはない。プロジェクトマネージャーに大きな権限と責任を与えている。

 DARPAの今後の研究・開発の方向をみてみよう。20世紀が物理学の時代だとすれば、21世紀は生物学の時代だと言われる。DARPAのメインの研究・開発も生物学の領域になっていくようだ。

 例えば兵士人体の改造だ。それには外的改造と内的改造がある。DARPAはこれらの最先端研究・開発機関だ。外的改造とは化学兵器、生物兵器、電磁波、銃弾の脅威から兵士を守るもので、赤外線画像や防音装置、全身を防御するファイバーなどを兵士に装着する。

内的改造とはブレーンマシーン・インターフェイスプログラムだ。微小電極を大脳皮質に埋め込み、人間の脳とコンピュータ(AI)を連動させて、スーパーソルジャーを作ろうとしている。

 もう一つは武装ロボットシステムだ。wi-fiロボットプログラムでは自己形成、自己最適化、自己回復機能を脳が持つ武装ロボットを開発しようとしている。この”自律性”は、ペンタゴンの「軍事の革命」の中心である。そのためには人間にコントロールされる現在のAIではなく、”人間から自律”したAI開発が不可欠である。DARPAはその開発を進めている。DARPAは人が不可能と思うことにも莫大な資金を出す。

 ペンタゴンに最も影響力のある研究団体である国防科学委員会(DSB)の大部分は国防

関連請負業者(軍事産業と研究機関)で構成されている。例えばレイセオン、ボーイン

グ、ジェネラルダイナミックス、グラマン、IBMと言った軍事関連企業。軍事研究を委託

される大学は例えば、MIT大、 ジョン・ホプキンス大、ハーバード大、スタンフード大、

カリフォルニア大等米国一流大学である。

 DARPAがペンタゴンの頭脳だとすれば、軍事産業はペンタゴンの巨大な心臓なのだ。

 改造人間研究の最先端を走るレイ・カーツワイル博士は言う。「強いAIは人類文明を指数関数的に前進させ続ける。しかし、それがもたらす危険もまさにその知能の拡大ゆえに大きなものとなる。知能は本質的に制御不能だから、今までに考えられたナノテクノロジーを制御する様々な戦略は、強いAIには効果がないだろう。」(「ポストヒューマン誕生」

強いAIを制御できないとしたら、AIの暴走も制御できないのだから、ポストヒューマン

(超人類)に向けたプロジェクトは、一歩間違えれば危険極まりないものであり中止すべ

きはずだが、なぜ国家も企業も 科学者も驀進するのだろうか。

 「人工知能を持つハンカーキラーロボットは、創造主である人間を打ち負かすことがで

きる。そして、いつかきっと打ち負かすだろう。その時、私たちが身を守る術はない」と

「ペンタゴンの頭脳ーDARPA」の著者は警告する。

詳細「ペンタゴンの頭脳ー世界を動かす軍事科学機関:DARPA

冷戦時代「大統領直属調査委員会」(1957年春)

 1957年米アイゼンハワー大統領は、核戦争の総力戦でアメリカ国民を守るために「大統領直属調査委員会」を設立。メンバーはランド研究所のローアン・ケイザーが統率者で、そこに北米航空宇宙防衛司令部、戦略空軍司令部、国防長官室、連邦民間防衛局、兵器システム開発グループ、CIA,リヴァモント研究所、サンシア基地。レイセオン、ボーイング、ロッキード、ヒューズ、ランドグループ等防衛関連請負業者。シェル石油、IBM,ブル研究所、NY生命保険会社、チェイスマンハッタン銀行等が人材派遣した。

スプートニクショック(1957年10月4日)

 ソ連が人工衛星「スプートニック」打ち上げに成功。ペンタゴンにとってパールハーバー以来の重大な不意打ちであり、米国民はパニックに陥った。

 ソ連の脅威を分析した秘密報告書「ゲイザーレポート」がワシントンポストにリークされ「核戦争が起きた場合米市民を守るすべはない」と結論付け、大統領に核兵器増大を勧告した。

ARPA創設(1957年11月)

 スプートニクショックを契機に国防省内にARPA(高等研究計画局)が設立された。目的は米国最先端の軍事プロジェクトの管理で、人工衛星と宇宙に関する全ての研究開発のみではなく、「未来の巨大な兵器システム」を研究開発する機関であった。

ケネディーの柔軟反応戦略(1960年:ベトナム戦争)

 ケネディーはアイゼンハウアーの相互確実破壊に基づくドクトリンに代わって柔軟反応戦略に転換した。対ゲリラ:ベトナム戦争で社会学と心理学のプログラムに基づく軍事行動でARPAMAAGVとベトナム政府軍が運営。プロジェクトアジャイルと名付けた。

枯葉作戦(1961年8月)

 この作戦の実施試験にはARPAが監督。南ベトナムのジャングル半分に枯葉剤をまく計画をした。実際約1900ガロン以上の除草剤がまかれ、ベトナム人210万~480万人が被害を受けた。

戦略村

 国防省は戦略村プログラムを効果的手段とみなしていた。ARPAが戦略村を調査。農民全体が不満を表明し、強制移住に動揺していた。ARPAは戦略村は失敗するだろうと報告した。しかし国防省は報告書を無視、拒否し極秘扱いにした。

インターネット

 核戦争に対応できる指揮統制システム開発の任務はARPAに課せられた。ARPAJCR・リックライダーを雇用。彼はコンピュータと人間の脳に類似性を見出し、人間と機械との共同関係を想像した。この革命的発想がインターネットのプロトタイプであるARPANETであった。

キューバ危機(1962年)

 ソ連が核ミサイルをキューバに設置。核戦争の危機が迫った。指揮系統を最新式にしなければならなかった。リックライダーはレーダーや人工衛星から情報報告書、通信ケーブル、気象通報まで多様なプラットフォームで情報を収集できるコンピューターネットワークをARPAに提案した。

ベトコン反乱軍とは何者なのか?

 戦争3年目なのに、ベトコン反乱軍とは何者なのか?、を誰もわかっていなかった。ランド研究所の社会学者:ジョセフ・ザスロフに調査が依頼された。CIAの南ベトナム刑務所の捕虜にインタビューした。「強い自制心と大義の献身を備え、共産主義の考えを吹き込まれていた」「囚人たちは自分たちと子孫のために、教育、経済、機会平等と構成の実現を心から願っていた」「この反乱は反乱ではない。民族主義者たちによるベトナムと人民のための闘いなのだ」と。

 ARPAはペンタゴンに受け入れられないこの報告書を否定。レオン・グーレイを派遣。彼はザスロフとは正反対の結論を報告した。

ホーチミンルート(1966年夏)

 1966年米軍は38万5000人に増派していた。国防省はホーチミンルート分断方法を求めた。

 ジェイソングループは一連の電子障壁を提案。ルートを「耳で偵察」しようというもの。センサー音響、地震センサー、体温やエンジンの熱、匂いの変化を探知する熱センサー、電磁化学センサーでベトコン軍の動きを察知し、爆撃しようとした。この提案は国防省によって却下された。

 だがこの提案は1990年代になると、水爆に次ぐ21世紀でもっとも画期的な軍事技術とみなされるようになった。

ベトナム反戦運動(1968年)

 ARPAはデモ参加者に使える無能力剤を研究。催涙ガス、暴動鎮静剤、一過性失明、肺損傷、肺壊死をもたらす化学兵器もあった。たとえば副交感神経を遮断する薬剤(心拍数を急増、筋肉協調運動失調症、視覚低下、精神錯乱、嘔吐、昏睡を引き起こす)である。

 学生たちは大学が国防総省に協力して核兵器の研究をしていることを暴露。大学は軍産複合体の積極的支持者だと主張。反戦運動は高揚した。

ペンタゴンペーパー(1968年)

 ランド研究所のダニエルエルズバーグがNYtimes紙にベトナム戦争の秘密資料を内部告発。3000ページと4000ページの機密覚書と付属文書類を暴露した。

高ステルス機(1974年)

 1974年、DARPAの戦術技術室は高ステルス機を製造する極秘プロジェクトに着手。マクドネルダグラス社とノースロップ社と契約した。

インターネット(1974年)

 1973年DARPAが委託したカーンは、コンピュータ共通言語(プロトコル)を開発。36台のARPANETのノードが公共電話通信網をつうして接続され、37代目がハワイで人工衛星の通信リンクによってつながった。リックライダーが10年前に描いた「銀河間コンピュータNET]というvisionが世界規模で実現した。

レーザーミサイル

 DARPAがベトナム戦争中実施したプロジェクトで、ベトナム戦争最後の年には北ベトナムに10500発のレーザー誘導爆弾を投下し、約半数が標的に直撃した。

ドローン

 DARPAのベトナムドローンプログラムは、国防技術局の発想だった。上空で撮影した映像がジープの装置によって記録され、船上管制局へと中継されると、司令官たちが高性能攻撃機を送る。

GPS

 DARPAが開発した重要なもう一つの技術がGPSだ。GPSは兵器を正確に標的に導く軍の機密プログラムだった。1973年ペンタゴンは、DARPAに軍全体で共有できる単一システムの開発を命じた。「全地球把握システム」である。1989年に完成した。ベトナム戦争中に開発したセンサー、コンピュータ、レーザー誘導兵器、ARPAネット(インターネット)、ドローンといった技術が「全地球把握システム」開発に貢献した。

湾岸戦争(1991年)

 DARPAが開発したF117Aステルス戦闘機は「戦争に革命」をもたらした。レーダに映らずイラク領内に侵入し、防空システムを壊滅させた。レーザ誘導爆弾、赤外線夜間爆弾装置、ステルス戦闘機の前に、イラク空軍は応戦すらできなかった。

「空の司令官」ボーイング707、300

 これはDARPAが開発した技術で「統合監視、目標補足攻撃システム」という指揮統制通信センターで、空軍と陸軍で協働運営。

暗視赤外線画像(1991年湾岸戦争)

 DARPAが開発。1961年軍事赤外線研究の成果で、ジャングルでも砂嵐でも見通せる。

 イラク戦争ではステルス戦闘機、GPS,レー0ザ誘導爆弾、暗視装置というシステムを連動させることで想像を絶する死をもたらした。

非対象的戦争(1993年モガディシオ)

 ソマリアの首都モガディシオで、武装民兵+部族軍vs米陸軍レンジャー部隊、海軍特殊部隊、陸軍対テロ特殊部隊の戦争だったが、最新の兵器が棒きれと石とAK47ライフル、数発のロケット弾に敗北した。近代アメリカの軍事を変える分岐点になった。

DARPAは市街戦重視に転換。そしてランド研究所に戦車以外の作戦の研究を依頼した。報告者は「地獄の戦闘——制約の多い市街戦の考察」となずけられ、孫子から学び、市街戦は最悪の方策で市街戦は避けるべしと勧告した。

生物兵器(1989年証言)

 1989年ソ連から米国に亡命したウラジミール・バセメニク(ソ連高純度生物製剤研究所主幹)が、炭疽菌、野兎病、ボツリヌス毒素のみならずワクチン、抗生物質耐性菌を遺伝子操作することや究極の病原菌である腺ペストの抗生物耐性株を戦略的に作っていたこと、また天然痘の兵器化にも取り組んでいたことを話した。これに対抗して米国は生物兵器対策を驚くべき速度で巨大な新産業に成長させた。その主導権はDARPAが握った。

 ソ連から米国に亡命したアリベコフ博士は、ソ連がICBMに生物爆弾を搭載する計画をしていたこと、またキメラ生物兵器開発計画も明らかにした。DARPAの任務はこの脅威に対して「生物学のスターウォーズ計画」を作ることだった。生物兵器防衛産業という眠れる巨人が目を覚ました。

戦争のための人体改造——外骨格

 DARPAに入局した元陸軍大将ゴーマンは1990年、兵士を超人兵士に変身させる外骨格について論文を書いた。外骨格は化学兵器、生物兵器、電磁波、銃弾の脅威から兵士を守るための視覚用の赤外線画像、聴覚用の騒音防止、全身を覆うファイバーオブティックスを開発する。そのことによって並外れた聴覚、視覚、動作、射撃、通信能力を備えた21世紀型の兵士に変身する。DARPA製外骨格の開発が始まった。

兵士内側からの変革(スーパーソルジャー化)

 DARPAは生物兵器の脅威を受けて、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、情報技術の結合によって兵士を内側から変えようとした。1999年国防科学室を設置。室長のマイケル・ゴールドブラットは機械などの手段によって人間を根本的に変革できるとの超人間主義の先駆者だった。想像できることは何でもDARPAでは試すことができた。

ブレーンマシーンインターフェイス

 このプログラムでは脳インプラントで認知能力強化を研究。DARPAは未来「兵士たちが思考するだけで交信できる」ようにするビジョンを描いていた。

 アイゼンシュタット博士は「人間の脳に無線モデルがあって、兵士が自分の考えに知って行動するのではなく、考えがそのまま実行される時代が来ることを想像してほしい」「外骨格や脳インプラントは、ペースメーカー、人工内耳、人工装具とどう違うんだ」と2014年のインタビューで博士は答えた。

バイオアラートプログラム

 本来は国外で展開する部隊をバイオテロから守るためだったが、近年は個人の医療記録を活用して、市民を監視する国家プロジェクトへと拡大している。このプロジェクトでD

ARPAと提携している軍事機関は、リード陸軍研究所。民間機関はジョンホプキンス大学応用物理学研究所、ピッツバーグ大学、カーネギーメロン大学、スタンフォード大学医療情報グループだ。防衛関連請負業者ではジェネラルダイナミックスとIBM

TIA(全情報認知プログラム)2002年8月

New York Timesは「個人情報の巨大な電子捜査網は、世界を股に掛けたテロリスト狩りの一環である。アメリカも範囲に含まれる。この捜査には令状など必要ない。」と。またTIAの統括機関がDARPAであることも明らかにした。

 コラムニストのウイリアム・サファイアは、TIAがアメリカ市民3億人の電子人物調査書を作ろうとしていること、監視対象としてクレジットカードでの商品購入、雑誌購読、処方箋の調合、ウエッブサイト閲覧、Eメール全送受信を挙げた。市民の抗議の嵐の前にTIAは2003年議会で廃止が決定された。だがTIAの多くは機密扱いとなってNSADHSCIA、軍部へと引き継がれた。

2013年NSAのエドワードスノーデンの内部暴露によって、巨大な電子監視やPRISMという秘密のデーダマイニングが明らかになった。

ヒューマンテレインシステム(イラク戦争、2003年)

 2004年イラクの反乱勢力は驚くべき速さで勢力を拡大。科学技術では反乱軍に勝てないことが判明。ヒューマンテレインシステムは、人類学、社会学、政治学、地域研究、言語学などの社会科学の分野の要員を雇用し、軍事司令官とスタッフに彼らが展開されている地域の地元の情況を把握させること。DARPAは未来の戦争は、衝突と恐怖やネットワーク中心の闘いよりも、人民を理解することのほうが重要になるとペンタゴンに提言し取り入れられた。

HURTプログラム(戦闘地域監視)イラク戦争

 HURTとは、テロリストから群衆という隠れ蓑を奪うためのプログラムだった。数千の防衛関連請負業者がイラクに派遣された。小型監視カメラ、マイクロセンサーを数千機設置。自動車、人体、顔認証など動くもの全てを追跡した。小型ドローンも使用。これらの情報をDARPAAIで処理した。ゲリラは25ドルで製造できる即席爆発装置で対抗した。

ヒューマンテレインプログラム(2008年アフガン戦争)

 ペンタゴンは多国籍軍を使ってアフガン人15歳から64歳男子全員に生体認証検査を実施した。眼球の虹彩スキャン、指紋、顔認証、DNA検査等DARPAの情報認知室のプロジェクトだった。3年間でアフガン人150万人、イラン人220万人の生体認証スキャンを実施。米国人類学会はこのプログラムを人倫に反すると断言した。

ドローン戦争(2013年アフガン戦争)

 オバマ大統領は、今後25年間ペンタゴンのドローンが戦争を主導すると明言。無人機、無人車両システム、無人水上車両、無人海上システム、無人航空システム、つまり深海から宇宙まであらゆるところで無人攻撃できるシステムである。

 DARPAは超小型の昆虫ドローンを開発。コンピュータサイエンス、ナノテクノロジー、ナノバイオテクノロジーに基づき生物と機械を組み合わせたサイボーグだった。ナノバイオテクノロジーによって動物の脳に微小の機械を結合できるようになった。ハチドリ、こうもり、かぶと虫、ハエのように見えるドローンもある。DARPAの「未来の巨大な兵器システム」の一環である。

武装ロボットシステム

 DARPA考案の武装ロボットシステムは、偵察監視のみならず、3km離れた標的を殺害できるように設計されている。wi-fiロボットプログラムでは、自己形成、自己最適化、自己回復、パワーマネジメント機能を実証しようとしている。

 ”自律性”はペンタゴンの「軍事における革命」の中核にある。自律性機能には真のAIが不可欠だが現在のAIの能力は自律性には程遠い。だがDARPAは真のAIの創造に取り組んでいる。

ニューロテクノロジープログラム(脳の戦争)

 このプログラムは、脳損傷兵の脳に複数の電極を外科的に埋め込んだり、脳と頭蓋骨の間にマイクロチップを埋め込んだりすることによって治療する。チップが情報オペレーションセンターにデータを送ると、センターは遠隔操作で兵士の脳の様々な領域に電気的刺激を送り症状を緩和する。未来の戦争の一部である。SFの領域であったことがすごい速度で現実の科学にになりつつある。DARPAは答えがわからないことに資金を出すとDARPAの科学者は言う。

ブレインコンピュータインタフェイスプログラム

 微小電極アレイを大脳皮質に埋め込み、頭蓋骨の上に取り付けたフィールドスルー台座とつなげるプログラム。批判もある。ジェイソングループは倫理上の問題があり、人間サイボーグは推奨できないと。

 だがDARPAに最も影響力があるDSB(国防科学委員会)はジェンソングループとは正反対の見解で、人工知能システムを持った兵器開発を要求。

軍産複合体

 国防科学委員会(DSB)のメンバーのほとんどは国防関連請負業者だ。委員長のポール・カミンスキーはGMの取締役、ランド研究所の取締役会長、ヒューズ研究所の取締役会長、エクソンサター社の取締役会長、MIT研究所理事を兼任している。どの企業団体もペンタゴンとDARPAのためにロボット兵器を作っている。

 国防長官室の50人の委員は全員大手防衛関連業者の役員だ。レイセオン、ボーイング、ジェネラルダイナミックス、グラマン、エアロスペース、IBM等。

 アメリカの軍事技術の優位を守ることがDARPAのすべてであり、ペンタゴンは絶えずニーズを先取りして「軍事における革命」を主導しなければならない。軍事技術は10年ごとに巨大化する一方だ。DARPAがペンタゴンの頭脳とすれば、軍事産業はペンタゴンの中心で脈打つ巨大な心臓といってよい。

 自律型兵器を開発するペンタゴンを批判する科学者は警告する。AIハンターキラーロボットは創造主である人間を打ち負かすことができる。いつかきっと打ち負かすだろう、しかしその時私たちは身を守るすべがない。

 現在、防衛関連請負事業者、研究者、実業家が主導する軍産複合体はペンタゴンで絶大な支配力を持っている。

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参考

アメリカ国防高等研究計画局(DARPA出典:「ウイキペディア」

 DARPAは国防省内部部局。大統領と国防長官の直轄の組織で、米軍から直接的な干渉を受けない。構成員は約300人。DARPA長官のもとに約150人の技術系職員がプロジェクトマネージャとして各分野の研究をしている。技術系職員は公募。最先端科学技術の開発で軍や他の研究所は投資を行わない隙間に投資を行う。DARPAの研究施設はなく、実際の研究はプロジェクトマネージャーが、企業や大学の研究施設で行っている。DARPAは軍の研究機関とは独立しており、軍や議会から批判を受けないという特徴がある。

 DARPA長官のもとに7つのプログラムオフィスがある。

 防衛科学研究室、情報処理技術研究室、マイクロシステム研究室、先端技術研究室、情報活用研究室、特別技術研究室、戦術研究室。

米国DARPAの研究開発マネージメントのポイント

DARPAモデル

 きわめてハイリスクであるがインパクトの大きい研究開発に投資する。明らかに成功する研究は採択しない。優秀なプログラムマネージャーを産官学から招聘、プログラムマネージャーに責任と権限を与える。

 プロジェクトマネージャーも3-5年で入れ替え常に新しいアイディアを取り込む。

 DARPAの支援を受けた案件の事業化に向けて、ベンチャーキャピタルが積極的に投資し、新産業を創出する。

プログラム立案

 パラダイムシフトを起こさせること

 成功のための仮設を説得的に説明できること

 ハイルマイヤーcriteriaを満たしていること。

プログラムマネージャーのリーダーシップ

 その分野で最高の研究者を入れること

 イノベーションのためのネットワークを作ること

 煮えたぎる情熱を持って臨む

 プロジェクトの成功に責任を持つ

 最高の研究者をencourageする

 テクニカルリスクがたかくとも、リスクを最小限にする

プログラムマネージャーの資質

 物事を動かす能力

 世界を変えたいという情熱

 起業家精神

 深い技術機知見

 他人のアイディアを取り入れられる

 イノベーターとして実証されている

 創造性

 ビジョンを持っていること

 ベストな人を見つけられる能力

 短期長期のマイルストーンを作れる

 はっきり物事を言える

米国DARPAの概要

「海外動向ユニット(北場 林)」

アイディアの生成

 プログラムマネージャーが全米各地を回って以下のようなルートから、革新的なアイディアとアイディアを持つ人を探し出す。

 産業界、学会からの提案

 プログラムマネージャー自身の研究者人脈

 学会への参加、ワークショップの主催

 DSB等、DODの諮問機関からの提案

 DARPAがスポンサーをしている研究会からの提案

 海外の技術動向調査:諸外国で発生した技術ブレークスルからのアイディア抽出。

 DARPA局長による研究プログラムの承認後、基礎応用研究のための提案を公募する。

DARPAの資金配分先(2011年~2013年)

 約15%はDARPA内部

 約70%は産業

 約25%は大学

 約5%は海外

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